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京都地方裁判所舞鶴支部 昭和31年(ワ)37号 判決

原告 亀井康二

右代理人弁護士 守屋美孝

被告 山口晴美

右代理人弁護士 奥田親一

被告 山口和博

被告 山口滋子

被告 山口浩子

右三名未成年につき特別代理人 奥田親一

被告 幸池新吉

主文

被告山口晴美、同山口和博、同山口滋子、同山口浩子との間において舞鶴市大字野原小字家ノ奥四九番地ノ一五山林二畝歩(実測約一町)及び右地上に生立する立木は原告の所有なることを確認する。

右被告四名は原告に対し前項の山林(土地)について昭和一六年一二月三〇日付売買を原因とする所有権移転登記手続をなすべきことを命ずる。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告幸池新吉との間に生じたものは原告の負担とし、その余の訴訟費用は特別代理人に支給すべき報酬を除き、これを被告晴美、同浩子、同和博、同滋子等の負担とし、右報酬は被告浩子、同和博、同滋子等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一項を「舞鶴市大字野原小字家ノ奥四九ノ一五山林二畝歩(実測約一町)並に右地上に生立する立木及び同地上に存する伐木(原木)は原告の所有に属することを確認する」とする外主文第一、二項同旨並に訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は昭和一六年一二月三〇日被告幸池を除くその余の被告等(以下単に被告山口等と称することがある)の先代山口八蔵より主文第一項記載の山林並に該山林に生立する立木全部を代金千円で買受け、同日代金の支払いを済ませ、その所有権を取得した。

二、原告は山口八蔵の甥であり、売主、買主が親族の間柄にあつたので、格別所有権移転登記を急がず経過するうち、昭和二八年二月一四日売主山口八蔵死亡し、被告山口等においてその子としてその共同相続人となつた。

三、ところが、被告山口等は本件山林についていまだ原告名義に所有権移転登記手続がなされていないことを奇貨とし、殊更に本件山林並に立木が原告の所有なることを争い、原告が本件山林並に立木に関する山口八蔵作成の売渡証書を被告山口等に示して他に処分することを制止したに拘わらず、昭和三一年一〇月頃被告幸池との間に売買の交渉を進め、被告幸池は右の事情を知りながら已に本件山林に生立する立木の伐採を始めた。

四、よつて本訴請求に及んだ。

と述べ、

立証として、甲第一号証を提出し、証人亀井国太郎、新田仁、正井岩次郎の各証言鑑定人藤井栄一の鑑定の結果竝に原告本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の成立を認め同第二号証は不知と述べた。

被告山口晴美訴訟代理人兼被告山口和博、同山口浩子、同滋子三名特別代理人は原告の請求を棄却する。との判決を求め、答弁として、

原告の主張事実中本件山林が亡山口八蔵の所有であつた事実、原告主張の日時山口八蔵が死亡し被告山口等においてその共同相続人となつた事実及び被告山口等が本件山林(立木)を被告幸池に売渡した事実は認めるが、山口八蔵は本件山林を原告に売渡したとの事実を否認する。

と、述べ、

立証として、乙第一、二号証を提出し、証人山口染子、中川房太郎、柴田利一郎の各証言及び被告山口晴美本人尋問の結果を援用し、甲第一号証を否認した。

被告幸池は主文第三項同旨の判決を求め、答弁として、原告の主張事実中被告山口等が山口八蔵の死亡によりその共同相続人となつた事実、被告山口等から本件山林(立木)を買受けた事実は認めるが原告が山口八蔵から本件山林を買受けたとの事実は知らない。被告は右立木を直に訴外深田木材株式会社に転売し、同会社の委託により右立木の伐採を始めたものである。

と、述べ、甲第一号証は不知と述べた。

当裁判所は職権をもつて被告幸池新吉を尋問した。

理由

本件山林が亡山口八蔵の所有であつたこと、同人が昭和二八年二月一四日死亡し被告山口等においてその子として八蔵の共同相続人になつたことは当事者間に争がない。そこで原告主張の昭和一六年一二月三〇日に本件山林につき原告と山口八蔵との間に売買が行われたものと認むべきかにつき考察するに、鑑定人藤井栄一の鑑定の結果によれば甲第一号証における山口八蔵の署名が弁論の全趣旨により成立の認められる乙第二号証の山口八蔵の署名と同一であると認められ又甲第一号証の山口八蔵名下の印影が成立に争のない乙第一号証(山口八蔵の印鑑証明書)の印影と同一なることが認められるから当裁判所は甲第一号証は真正に成立したものと認める。従つて右認定に反する証人柴田利一郎、中川房太郎、被告山口晴美の各供述はこれを採用しない。そして右甲第一号証と証人亀井国太郎、新田仁、正井岩次郎の各証言、証人中川房太郎の証言の一部及び原告本人尋問の結果を綜合すれば、山口八蔵と原告との間に昭和一六年一二月三〇日本件山林(立木を含む)につき代金千円で売買が行われ、原告は右代金支払の方法として、代金の一部三〇〇円は原告の同人に対する貸金債権で充当し、残り七〇〇円を現金で支払い、その頃本件山林の引渡を受けた事実を認めるに充分である。証人山口染子、柴田利一郎の各証言、被告山口晴美の供述によつては右認定を覆すに足りない。他に右認定を妨げる証拠はない。果してそうだとすると、本件山林(土地)及び該地上の立木は右認定の売買により原告の所有に帰したものといわねばならない。従つて山口八蔵の相続人たる被告山口等は原告に対し本件山林の所有権移転登記手続をなす義務がある。ところが原告が本件山林(土地)の取得につき所有権移転登記手続をしないで経過するうち、売主の山口八蔵が死亡し、同人の相続人である被告山口等において昭和三一年一〇月頃本件山林(土地)に生立する立木を被告幸池に売渡したのであるから(右の事実は当事者間に争がない)原告は被告幸池に対し本件山林の立木(及びその伐木)の所有権取得を対抗し得ないわけである。而して証人亀井国太郎及び被告幸池新吉の各供述を綜合すれば、被告幸池は本件立木を被告山口等から買受けて直ちにこれを訴外深田木材株式会社に転売したのであるが、同被告は右訴外会社の委託を受けて本件立木の伐採を行い、約その三分の二を伐採したことが認められる。右認定を覆す証拠はない。ところが、被告幸池又は同被告から本件立木を転買した訴外会社において本件立木の取得につき明認方法を講じたことにつき主張及び立証がないから(本件立木につき立木法の適用のないことは弁論の全趣旨により明かである)被告幸池は本件立木の取得を原告に対抗し得ない関係にある。然し、このように被告幸池よりも先に本件山林(及び立木)を買受けたる原告は譲渡人山口八蔵従つてその相続人被告山口等に対しては本件立木が自己の所有に属することを主張し得るものと解する。蓋し本件山林の譲渡人たる山口八蔵従つてその相続人たる被告山口等は原告に対し本件山林の所有権移転登記手続をなすべき義務があり又これをなし得る地位にあるからである。然し原告は被告山口等に対し本件山林に存在する伐木(原木)が自己の所有に属することを主張し得るであろうか。右伐木は被告幸池より本件立木を転買した訴外深田木材株式会社が同被告を代理人として伐採させたものであることは前段で認定したとおりである。ところで、立木は伐採により動産となる。伐木(原木)は今や右訴外会社の占有にある。大審院は大正八年五月二六日言渡の判決において立木の譲受人が立木の伐採に着手したのみでは立木の取得につき明認方法を講じたものとはいえないとし、その対抗力を否定した。本件においても本件山林に残存する立木について被告幸池又はその転買人たる訴外会社においてその取得を第三者たる原告に主張し得ないことは既に説示したとおりである。そして原告と被告幸池(又はその転買人たる訴外会社)との間においては本件山林に残存する立木については先に対抗要件(地盤についての移転登記又は立木についての明認方法)を具備することによりその優劣がきまるわけである。然し対抗要件の具備は遡及効を有するものとは解せられない。従つて、たとえ原告が本件山林につき所有権移転登記手続を経由しても、本件山林の立木の買受人たる被告幸池(又はその転買人たる訴外深田木材株式会社)に対し、右登記手続のなされる前に、被告幸池等において伐採した材木即ち動産に変じた原木に対し所有権に基いて返還を求めることは許されない。果して右説示の如くであれば、訴外深田木材株式会社は本件山林に存在する伐木(原木)について完全なる所有権を取得し、従つて原告のこれに対する所有権は消滅するから、原告は被告山口等に対して最早右伐木(原木)の所有権確認を求め得ないわけである。

よつて原告の本訴請求は主文第一、二項において認容した限度においてはこれを正当としてこれを認容すべきであるが、その余を失当として棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条第九二条第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 庄田秀麿)

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